文書の見た目の美しさを捨てられるか

印刷の仕事をしていると、Wordで原稿が入稿されることがよくあります。Wordの原稿をInDesignで組み直す場合が多いのですが、ものによってはWordの原稿をそのまま印刷する場合もあります。
Word原稿をそのまま印刷する場合は、スタイルを定義したWordテンプレートを作っておき、標準化されたレイアウトスタイルの文書を作成するのが理想だと思います。実際に、スタイルを定義したWordテンプレートをクライアントに提供したこともあります。しかし、定義してあるスタイルだけを使って、クライアントがWord文書を編集することはまずありません。行末の切れ目が気に入らない、インデントの位置が気に入らない、行を1行に収めたい等々の理由で、定義したスタイルを無視したレイアウトを行ってきます。つまり、クライアントは標準化されたそれなりのレイアウトスタイルより、個別に調整された美しいレイアウトスタイルを求めているわけです。
ここまで印刷屋さんの仕事の話をしましたが、DITAを始めとするXML文書の導入でも同じことが問題になります。XML文書はソフトウェアによってPDFやHTML、ヘルプを自動生成するので、生成される文書のレイアウトスタイルが美しくなるように、個別に微調整を行うことができません。もっとも、HTMLやヘルプはもともとレイアウトスタイルについてルーズなので、これらが問題になることはありません。問題はPDF出力です。
PDF出力、すなわち紙での見た目の美しさを捨てられないのであれば、XML文書を導入しない方がよいでしょう。どうにかする方法の1つに、FrameMakerのようなXMLの入出力が行えるDTPを導入する、という手段があります。私は、この手は使わない方がよいと思っています。なぜなら、先のWordの例であったように、文書を編集する上で「するべきではないこと」が「できてしまう」からです。文書を作成する人は、常に美しいレイアウトスタイルで文書を完成させたいと思っているのです。
見た目の美しさを捨てて、何が得たいのか?これをハッキリさせることがXML文書導入のポイントで、各自よく考えなければいけないことだと思います。単にXML文書を導入したから、

  • 文書作成のコストが下がる
  • 文書作成のTATが短くなる
  • 文書の品質が上がる
  • 文書翻訳のコストが下がる
  • 文書翻訳のTATが短くなる
  • 文書翻訳の品質が上がる

というようなことはあり得ません。例えば上記のようなことを実現するために、XMLをうまく活用する手立てを考えなければいけません。目的を明確にし、その実現方法を考える。あたり前のことですが、これをしっかりやっておかないと、XML文書導入は失敗してしまいます。